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お題を使って綴ります
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三、二、一、……ダイブ!

初期永倉と愉快な仲間たち。
節分。

 何か騒がしいな、とは思っていた。

「ただい……」

 ま、と繋げたはずの挨拶は、目の前を過ぎ去っていく隊士数人の足音にかき消され、屯所内どころか、おれの鼓膜に届くことはなかった。
 何事かとクエスチョンマークを浮かべていると、おっ、と原田さんがやってきて「おかえり」と手をあげた。
 もう一歩中に踏み込むと、ぱき、と足裏に軽い感触。どけるとそこには潰れた何かがあって、よく見ればそれは豆だった。今日は二月三日。節分行事の豆まきを始めているのだろうか。原田さんは荒い息でポンとおれの肩に手を置き、夕方の見廻りから帰って来たばかりのおれと、当番だった一番隊の平隊士、つまりは沖田さんの直属部下へと笑いかける。

「何の騒ぎですか?」
「パチぃ、今日の夕飯のデザート、知ってっか?」
「? さあ」
「プリンなんだぜプリン!」

 おれの質問には答えず、原田さんは鶏冠を揺らしながら熱く語る。

「……? 珍しいといえば珍しい……けど、何。争奪戦でもしてるんですか、もしかして?」
「さっすが、察しがいいな! その通りだ、題目は鬼ごっこ!」

 プリン。まあ確かに季節のフルーツが出るかなー出ないかなー程度の食堂のデザートにしては、豪華な部類かもしれない。おれの見廻り中に屯所内でどんな会話が繰り広げられたかわからないけど、何となく想像が出来てしまうあたり日本は平和というか。
 足の先でさっき潰した大豆を蹴る。大方、豆まきがヒートアップした結果だろう。

「鬼は三人、最後まで鬼だったそいつの隊は連帯責任、つまりお前だったら二番隊全員な、プリン献上。終了時刻は食堂の開く六時!」
「ああ、あと五分ですね」
「というわけで……」

 ニヒルな笑みを浮かべて、ぐるりと踵を返す原田さん。

「達者でなァァァ!!」

 猛然と駆けていくモヒカンに呆然とする。はっと気付いて隣を見ると、いつの間に脱いだのかブーツを捨て、さっきまでの味方もそろりと距離を取って。

「寄らないでェェェ!!」
「オイィィィ!!」

 あっという間に逃げ去った。
 扉は閉まっているはずなのにひゅうと風が吹きぬけた気分だ。
 軽く唸って、ブーツを脱ぎ捨て、おれも廊下に力強く踏み込む。あっちでどたばた、そっちでどたばた。みんな疲れているはずなのにおれが鬼だと知っているのだろう、ぴゅうとうまく逃げていく。ころころ転がっている豆もある意味トラップとなり、全速力で走ると足をとられそうでまた怖い。
 このままではおれだけじゃない、おれの命令を聞いてくれる部下にまで迷惑がかかる。たかがプリン、されどプリン。食べ物の恨みは恐ろしい。誰が言い出したのか知らないけど、とんでもないことをしてくれたものだ。
 あと何分あるだろう。足音が止まないからまだ数分あるはずだ、ゆるゆる速度を落として角を曲ると、ダンと影が落ちてきて心臓が止まるかと思った。その影はぐわっと大きくなると、おれの肩に手を置いて「タッチ」と告げる。

「お帰り、永倉。ご愁傷様」
「いやあの、……おれもう鬼なんですけ、ど……」
「む」

 そうなの? と首を傾げて揺れる砂色の髪。紫苑色の双眸はえらくつまらなそうに細められ、頷くおれに沖田さんはハアと大きく肩を下ろした。
 というかどこから現れたというのか。見上げてもただの板張りの天井があるだけ。あ、もしかしてあの鴨居に掴まってたのかな。だとしてもどこからツッコめばいいのかとても理解に苦しむ鬼の行動だ。

「ちっ、もう時間ないってのに……」
「なんかスミマセン……」
「まあいいけどね、あたしは自ら鬼になったクチだし」

 ちょっと驚いて走りながら隣を見ると、近藤さんがね、と苦笑を返された。それだけでおれは納得した。沖田さんなら鬼の局長に自らタッチすることぐらいするだろう。そもそもこの人は鬼ごっこが好きな人種だ。持久力はさほどないけど、それを補って余りあるだけの才能がある。例えば天井で待ち伏せてたり。

「さてどうしようかな、あとどんくらいあるだろ」
「くッ、ごめんなさいみんな……」
「……シ」

 止まった沖田さんにおれも急ブレーキをかける。「諦めるのはまだ早い」と、人差し指を口に当て、少し開いた襖から光の漏れる一室をじっと見つめる。おれも音を潜めて中を窺う。大きな壷が視界に入る、よく見ればそこにはふよふよ、白っぽい海藻が揺らいでいた。もちろんそれが海藻なんかじゃなく、中で屈んでいる誰かさんの髪の毛だということは容易に知れた。

「……恨みっこなしよ」
「はい」

 小声で頷き、す、と両人、引き手に指をかける。
 呼吸を合わせてカウントダウン。一気に開き、プリンを賭けて壷にダッシュした。




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