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いましばらく、愛を

土神。
冬の服装について。

 前から思ってたんだが、と前置きされて咳払いひとつ。
 あんまんを口に含みながら先を促すと、一瞬目が泳いだ。

「それ」
「あン?」
「短くねェか、って」

 思う。
 話しかけておいてあらぬ方向を見ながらごにょごにょ、聞き取り辛い。
 短い、といったら長さに関係するものだろう。あんまんを飲み込みながら考える。
 前髪? マフラー? 袖? 裾?
 ……裾。

「おまわりさーん!」
「ばッ、」
「せくしゃるはらすめんとー!!」
「でっけー声出すな!!」

 ぱかんと頭を叩かれる。その拍子にちょっと口の中に残っていたあんまんが喉に吸い込まれて、げほごほむせることになった。
 ふざけんなポリゴンしねヘンタイ。
 寒空に嬉しいあったか~い缶コーヒーを手渡され、一気に飲み干す。苦い。最後に一回咳をして深呼吸。ちょっと涙出た。
 きろりと睨むと若干不機嫌そうな顔をして副長さんが居心地悪そうに私を覗き込んでいた。無言で空になった缶を突っ返す。

「寒くねェのか、って意味で言ったんだがな……」
「……」

 げっそりしながら歩き出す。
 女心をまるでわかってない。仮にも異性と歩くとわかっている外出時の服選びを何だと思ってるのか。スカートが短いなんてそんなの、可愛く見えたらいいのになっ、と寒さなんて無関係にさせる乙女心からに決まってるじゃないか。
 対して、私に合わせて歩幅と速度を調整している多串君のいでたちときたら、全身真っ黒だ。いや隊服なんだから仕方ないけど、夕刻の見廻りを市民とのコミュニケーションの名目のもとデート化している手前仕方ないことなんだけど、それでも、色気に欠けやしないか。ロングコートを着込んでいつもの隊服は見えない、飾り気のない黒一色の姿は落描きしたくなって困る。それはともかく。
 やっぱりデート時の男女の温度差はあるものか。
 忘れていたあんまんをかじる。ブラックコーヒーの苦さが中和されていって口の中は平穏を取り戻したけど、さてこの気持ちはどうやって落ち着かせよう。

「あのよ」
「……」
「……悪かったって」

 本当に思ってンのかこのウスラトンカチ。
 目線も向けずひとりずんずん歩いていく、その後を追う足音はいなくならない。
 ちょっと拗ねても放り出さないひとは好きだ。でも、こういう男は女をつけあがらせる。バカな女にはなりたくないと常々思っていたから、最後の餡を飲み込んでぴたりと足を止める。

「……っと」

 慌てて立ち止まってちょっとバランスの悪い多串君の、襟元をぐいと引っ張って背伸びする。
 頑張った結果の最高地点。喉仏のあたりに唇を押し付けてやる。
 人の往来もあるから恥ずかしかろう、さあどうする、と意地悪く笑い、顔を離そうとする。しかし離し終わる前に、抱き寄せられてびっくりした。煙草のにおいが強くなって、銀ちゃんにからかわれる要素が増えてしまったとちょっと思った。
 寄せられた耳元で囁かれる。「にあってる」。で終わればいいけどそこは多串君、ゆるゆる私を放しながら「けど」と言葉を続けた。

「心配もする」
「痴漢される程ないすばでぃーじゃないネ」
「女扱いしてンのに頭ごなしに否定するな」

 あたまぐしゃぐしゃ、は女扱いの範疇じゃない気がするんですがどうなんでしょうか。
 乱暴に手を掴んで横暴に歩き出される。その歩みによって揺れる黒いコート、これに包まればあったかいかもなァと夢想した。
 屯所近くの曲り角から始まった見廻りデート、終着点の万事屋まであと少し。




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BGM:ryo『メルト』
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加島恵梨(カシマメグリ)
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