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他人行儀な微熱

現行土沖。
雪の降る日。ほのぼのじゃない。
アニ魂第12期EDネタバレ?

 白い闇夜だ。
 身じろぎしないからうっかり通り過ぎそうになった、まるで地蔵のような塊に舌打ちして近寄る。
 ぎゅ。ぎゅ。ぎゅ。雪が足音を吸う。

「……何考えてやがる」

 意識して低く唸る。元から低い声は雪に沈みそうなぐらいの重さを持って落ちた。
 ゆる、と総悟がこちらを向く。

「交代ですかィ」
「いいや、撤退だ」

 おや。と鼻を赤くした総悟がわずかに唇を動かす。その唇に生気はなく、水浴びしすぎのごとく青紫になっている。
 頭から肩から、出っ張っている部分に容赦なく積もった雪を払いのけると、すいやせんと小さく返って来た。

「コート着てるからってよ、体温が逃げねーわけじゃねェんだぞ」
「そうみたいですねィ」

 革手袋をしていても雪の冷たさは尋常じゃない。今朝方から降り始めた雪は江戸中を真っ白にさせ、冷凍庫のごとく冷やしている。降っているときより降り始める前のほうが寒いのだが、それでもこの寒さの中何時間も動かずにいたのかと思うと、リアルすぎてゾッとしない。
 視界に映った指は赤白い。何で手袋のひとつやふたつ持っていないのか、革手袋を外して握りこむとまるで氷のようでこちらがびくついた。

「大分冷えたかも」
「笑いごとじゃねェだろ」
「誰も笑ってやせんよ」

 は。吐かれた息さえも凍りそう。白く溶けた息にまだ体温はあるのだと妙なところで安堵した。
 俺も大概冷える体質だが、その俺が冷たいと思うほどその手は冷え、「あったけェ」とわずかな吐息に混ぜて総悟が漏らすほどだった。
 こいつは自分大好きなくせに自分の可愛がり方を知らない人間だ。他人があれこれ悩むところで悩まずに過ごすもんだから、自分勝手に見えるところもあればこうやって自棄に見えるところもある。少なからず好意を抱いている人間からしてみれば、その姿勢はいたく気に入らない。
 あいているもう片方の手で不器用にボタンを外していった。
 冷たい石から立ち上がらせる、長く座り込んでいたせいで足も痺れたかよろめいたところを、偶然に見せかけて引き寄せた。

「……濡れますよ」
「風邪ひくぞ」

 答えになってない。呟きは聞こえない振り。黒いコートの中に170cmを引き込んで、そのまま猫背に丸くなる。
 冷たい、冷たい。こんなになって、もし見張りの役割通り浪士が動いたらどうするつもりだったのか。刀を抜くどころか握ることさえ危ういんじゃなかろうか。まず立ち上がることさえ充分に出来ていなかったのだから。
 少しはあったまりやがれといえば、エエーと胸の中でもごもご返す。

「アンタの熱じゃ、たかがしれてそうですが」
「結構失礼なこと言ってンじゃねェよ」

 悪かったな。両の手で肩を抱いて背中にコートを回す。さすがにボタンはしめられなかったが、傍から見れば誰かいるとは一瞬わからないだろう。
 もぞもぞ、コートの中で細っこい指が動く。抜け出したいのか押し返そうとするも、全然力が入っていない。かじかみすぎてそれ以上は押しやれないのだ。どこまでバカなのかと、抱く腕に力を込める。

「何、考えてンですかィ」

 言葉だけは拒絶の意味。満足に拒めないくせに何を偉そうな。生意気な口を塞ぐと、やはり氷のように冷たかった。
 離した隙間に雪が舞い込み、ちりと溶ける。丁度通りがかった車のランプに一瞬照らされた、総悟の唇はわずかに濡れ、しかし目元は雪原のようにまっさらだった。表情筋まで固まったか、泣くなり喚くなり笑うなりして欲しい。
 誰かが踏みつける前に痕を残したくて、フードの中に隠れた耳朶を思い切り噛んだ。ビクついた身体はあまりにも細い。

 雪はまだ、やみそうにない。




Title:>stock>01
BGM:『過去と今と未来と君と』,『fallen』
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