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お題を使って綴ります
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初期土沖。学園パロ、教師と高校生。 ピアノ演奏、甘め。管理人に音楽の知識は装備されていません。 突然途切れたメロディーに耳が不快感を訴えた。 「生徒は早く帰んなさい」 フェードアウトせずに切れる音を、あたしの耳はひどく嫌う。部屋にいるときはともかく、登下校の際は急に止めなければいけないときがあるから特に気を遣う。音楽だけじゃなく、単に世界が壊れるのを嫌っているだけなのだが。 そういう保身の意味も込めて、出来るだけそっと近づいて終わるまでそっと聴いていたのに。 記憶から落ちていってしまう音楽から目を逸らすように、扉を開ける。一応防音はしっかりしているはずなのに、足音はあちらに届き、声はこちらに届いた。どんな耳をしているんだろう。 「学校は生徒のものです」 「うまいこと言うね」 始業式が終わってあとは授業もなく帰宅するだけのスケジュール。部活動は各部あったりなかったり、この部屋は大概吹奏楽部が根城にしていると思うが今日は休みらしい。先生とあたし以外、誰もいない昼過ぎの音楽室。 冬休み明けの寒い季節に軽く腕を捲くって、こっちを見ている土方先生はピアノの前に座ったまま動こうとしない。あたしが何をしに来たかわかっているはずなのに、ぽろーんと二、三の鍵盤を叩いてみせる。 「音楽の先生、もう帰りたいから鍵返せって」 「鍵ならちゃんとかけて職員室に戻しておくよ」 「第二の自室みたいなもんなんでしょ、よくわかりませんけど」 机の上に無造作に置かれたこの教室の鍵をちゃらりと突つく。 新学期初めての掃除にバタバタしていたら電車を逃した。あいにくここは五分に一本くるような山手線と違い、一時間に一本くるようなローカル電車の走る田舎なのだ。時間まで図書室で暇を潰した帰り際、ふと、顔を見てから帰ろうかと思い立って職員室に寄ったのがいけなかった。音楽の先生に呼び止められ、土方先生から鍵を返してもらうように、ひいては土方先生を連れてくるようにとお願いされてしまった。もともと用があったんでしょ、との言葉の意図は、担任に対する生徒の用向きを指摘してのことだ。週に一度の教科担当など、一生徒と他教師の仲の良さなんて知るよしもない。 「あと一曲」 「そんなこと言われても、頼まれたあたしが困るんですけど」 「代わりといっちゃなんだけど、好きな曲弾いてあげるぞ」 何がいい? 沈黙してちらと時計を見る。若干余裕はあった。一曲聴ける程度の。溜息を隠さないあたしに先生は余裕そうに口の端を上げた。 この人のピアノ演奏は趣味の一環だ。子どもの頃ちょっと習ったことがあるぐらい、でもたまに弾きたくなって、月に一度の土曜なんかにここを借りている程度には生活の一部となっている趣味。それを知っているあたしは、逆に選曲に迷ってしまった。そもそもあたしは音痴で楽譜も読めず、カラオケなど行っても絶対歌わない人間だ。クラシックなんて授業で触れた教科書に載ったものぐらいしかわからないし、流行の歌もぱっと出てこない。 「今朝聴いてた歌とか」 「……性格悪ぅ」 「ええーここでプライバシーの侵害とか言われても困ります」 「言いませんけど、教えません」 カノンとか、月の光とか。でいいのならリクエストするけれど、多分先生はそういうことを望んでいるんじゃないと思う。一瞬躊躇ったあと、あたしは先生の目を見る。墨色の瞳はずっとあたしを映していた。 「さっきの、を」 あたしがここに近づいてしまったから止めてしまった曲。 ドキリドキリと心臓がひとつずつ鼓動を打っていく。 あたしのご所望に、土方先生はふっと笑んで了解とピアノに向き合った。 「テキトーなとこからでいい?」 「はい」 流れ出す音楽は、耳に心地よい。寂しげな、でもどこか甘さを感じる曲。 題目は知らなくても、今まで聴いたことはなくても、先生が弾いているというだけであたしは胸がいっぱいになった。 「それ、何ていう曲ですか?」 邪魔をしないように。返事はなくても構わない、行儀悪く机に腰掛けてあたしは問いかける。気分転換に弾いていたのだから好きな曲なのだろう。名前を教えてもらえれば調べあげて、買ったり借りたりできるかもしれない。甘い期待に合わせたかのごとく曲調が少々明るくなる。シャープな横顔が「即興」と返した。そういう名前なのかとインプットしようとして、次の瞬間、意味を理解して思考が止まる。 骨の浮いた手は鍵盤を叩き続ける。 「……何で国語教師になったの」 「好きと得意は違うんだよ」 疑わしい眼差しを緩めることなくツッコミを入れるも、土方国語教諭は即興曲を弾き続けている。多彩な才能の持ち主って本当にいるんだなとつくづく思う。曲を作れる頭で明日の一時間目は舞姫を読むのだ。この人の頭の中を見てみたい。先生はピアノを奏で続ける。 即興曲。というからには、弾き手の“今”の心境を表しているのだろう。さっきの続きといいながら曲調は気分によって変化を遂げるはずだ。さっきまではひとり、しかし今は、あたしがいる。 あたしは真剣な眼差しを横から見つめ、名もない曲に耳をすませる。 寂しげだった曲調は期待を掻き立てるような、挑発的な明るいものとなっている。男の人の心の音が、女であるあたしの心臓をきゅうきゅう締め付けた。こみあげる感情が涙となって溢れ出る。 この涙がどうか、この人の愛の囁きの返事となりえますように。 ほろりと、空気内の糖度が増した。 時計の針は電車の発車時刻を指していた。 Title:>select>long BGM:『過去と今と未来と君と』,『fallen』 PR | カレンダー
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