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ベッドの上で、僕たちはアトムまで分解される

坂陸奥。
冬の入浴。

「ん……?」

 旅立つ前にどこかの馬鹿が大量に持ち込んできた黄色を泳がせる。
 ざぶりとお湯の落ちる音、こんと果実が壁に当たる音。聞き流しながら足を上げる。
 いつぶつけたのだろう。
 狭いバスタブで小さな褐色を眺める。なんとなく押してみた。痛かった。

 空に出たのは三日前。
 晴れも知らぬ雨も知らぬ、星星を眺めるのも珍しくもなんともない航海だ。
 目的の星に辿り着くのは明日の予定、つまりこの三日は船から出ていないということ。
 デスクワーク続きで大して歩いてもいない生活の中、あざなんか作る機会があっただろうか。脛とふくらはぎの中間点。一円玉程度の褐色は、疲れを癒す入浴時間に一滴、疑問を落としていた。

 どこかの馬鹿じゃあるまいし、走ってもいない、踊ってもいない、何もないところで転んでもいない、平穏に過ごしているはずの自分が、自分の与り知らぬところで怪我をした事実に眉をひそめる。
 そりゃ机の足にぶつけたとか、操縦機にぶつけたとか、いろいろ予想はつくが、「痛い」と思った記憶がないのがおもしろくない。
 自らが動かずともゆらゆら揺れる水面。この床を抱いた地が動いているのだという証明に、ぷかぷか泳いできた地球土産を再度押しやる。ふわんと爽やかな香りを湯に混ぜて視界の隅に消えるも、違う個体がまた泳いできて幾つも入れるんじゃなかったと少々後悔した。

 どこでぶつけたのだろう。
 朝、昼、夜、自らの生活をどこかの馬鹿の顔と共に振り返り、ひとつ。思い当たる節にぞっとした。
 まさか。いやでも。そうなのか。そう、かもしれない。そうなのか?
 再び褐色を軽く押して痛みに内心舌打ちし、急な転回に先立って設置されている白い鉄枠を思い浮かべ、ぶんぶんと頭を振った。

「陸奥ー!」

 船の問題か人間の問題かビジネスの問題か、何にしろこちらの事情など全く顧みないどこかの馬鹿の乱入に、このあざを作る手伝いをしたかもしれない恨みを込めてとりあえず、手元にあった柚子を投げつけておいた。




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