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お前は無力だと神が嗤った

初期近藤と土方。
「鬼」の副長。『人よ、残酷な人よ、』の続き。

「バレちった」

 何がと疑問が沸く前に事態を悟れた。誰にと返せば、沖田君にと返ってくる。

「あれまァ」
「冷静だな、近藤さん」

 何ともおもしろくなさそうな表情だ。促せば一瞬躊躇ったあとそろりと座った。とりあえず、今日にでもここから出て行くという話にはならなそうで安心する。

「どうだった?」
「……思う存分、角触っていきやがった」
『角は引っ込めても、髪色はヒトに合わせられなかったんですね』

 言われたのだろう言葉を裏声で繰り返すトシに苦笑する。
 話があると言われ、様子がおかしかったから残業を放ってひとり、さっさと自室で待ってみれば。苦々しそうに顔を歪める鬼の子は、実際俺なんかの倍以上は生きているはずだが、どうも年下扱いしたくなって困る。
 隠し持っていた酒を押入れの中から引っ張り出し、水差しの隣に伏せてある普通のグラスを手に取る。別にいいのにトシは律儀に酌をしてくれた。

「出来ないんだ?」

 今日一日、トシの様子が硬かったことを除けば、変わったことはなかった。ということはあの子は誰にもいっていないし、これからもいうことはないだろう。そういう性格だ。ただ、おもしろいおもちゃに目を輝かせすぎて何かあるのかと人に訝しがられることはありそうな話だと予想でき、明日の朝にでも一言、釘を刺しておいたほうがいいだろうと酒を飲み込んだ。
 不味くない。美味く感じるのだから精神的に余裕はある。こっちまで動揺してしまったら共倒れだ、俺もなかなか図太くなったと内心で賞賛した。

「俺ァ、まだ若いから」

 できたらとうにやってる。言われて、それもそうかと頷いた。
 グラスを空けてトシに渡す。素直に酌をさせてくれた鬼の頭、今、角が覗いていないのは昨晩のことを警戒してのことだろう。隠すのもそれなりに力を割くという。俺の前でぐらいは楽にしてもらいたかったが、昨日の今日じゃ言っても無駄だと思い、なるように任せる。

「あいつなら悪いようにしねェよ、トシ」

 グイと辛口の酒を軽く飲み干した顔は、泣きそうに見えた。

「……だといいがな」
「若いっていやァ」
「あン?」
「お前、何年ぐらい生きてンだ?」

 だんだん、表情が柔らかくなってくる。嘲笑にも似ていたが、単に微笑んだだけかもしれない。注ごうとする瓶を取って酌をしてやる。
 一緒に来るかとスカウトした当時から、変わっていない姿かたち。人間のような見た目に年を重ねられるのか聞いたこともある。返って来たセリフは「この姿が気に入っている」、ということはそれなりに老いたり幼くなったりはできるのだ。だからこそ、実年齢は全く予想ができなかった。
 酔って来たのか警戒が解けて来たのか、揺れる銀の髪から金の角が見え隠れする。俺も久方ぶりに、触りたいなと思った。
 びゅうびゅう、北風が雨戸を叩くのと重ねて、鬼は言う。

「忘れた」


coaxial:『「まぁ、そういうことだ」(簡単に言ってくれる)

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BGM:KOKIA『調和 oto』
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