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この手だけは、放したくなかった

ギャグマンガ日和、芭曽。のつもりで書いたから芭曽。
秋の夕暮れ。

 黄色い葉が降ってきた。だからといって手にとることはせず、土と同化するため落ちたケヤキの葉を無感情に踏み潰した。
 そろそろ本格的に急がないと日が落ちる。
 野宿をしたことがないわけではないが、この季節だ、夜は容赦なく冷え込む。ご老体の師匠には堪えるだろう。

「ひどいや曽良くん!!」
「……はい?」
「今ひどいこと言われた気がしたよ!」
「何も言っていませんが」

 師弟の関係にも関わらず先導する、自分を追いかけてくる芭蕉さんに事実を返す。思いはしたけど口にはしていない。例え即していても以心伝心という単語は遣いたくなかった。
 足を止めて少々息の上がり気味の師匠を待つ。追いついたところでまた歩き出す。わーんと泣き言を吐かれるが、知ったことではない。いや、知ったことなのだ。少し若いからといって僕が速く足を動かしただけで、すぐに間があいてしまう。それは個人の性格もあるが、年齢が広く割合を占めているのだと思う。だから尚更、夜露の濡れる外で眠らせたくなかった。
 思っているうちに、自分の影と木の影が混ざり合っていき、そのまま解体しそうにない雰囲気を醸し出していた。

「芭蕉さん、早く……って、」

 いやしねぇ。
 いるにはいるけれど、先程のケヤキの木のちょっと進んだ、合流した地点あたりに突っ立っていた。
 どう引っ張っていこうか、説得の言葉よりも力技を考えながら来た道を戻った。呼ばないのはきっと返り事はないだろうと予想がつくから。

「曽良くん」
「早く人里に着きたいんですが」
「ねぇ、綺麗だねぇ」

 ほらと皺が若干寄った人差し指の先、日が山々の間に姿を消そうとしていた。
 同じ景色は二度と現れることはないと、師はいう。

「……」
「よし、詠もう」
「ダメです」
「なんでさ!」

 状況を見ろと言えば、うんと快く夕暮れと夜の始まりをまた眺め始めたのでバシンと肩を叩いた。首根っこを掴もうと思ったが、筆を取り出そうとしていた手を素早くとらえる。この寒さの中、あたたかさを保っている手に、逆に自分の指の冷たさを思い知ってびっくりした。

「曽良くん、冷たい手」
「……誰のせいだと思っているんです」

 握り返されたあたたかさを逃がさないよう、ぎゅっと握りしめて足を動かす。急ぐが少し、歩幅を狭めて。

 冷たい風がつきつきと流れていった。




Title:>stock>01
BGM:KOKIA『Follow the Nightingale』
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