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隠しきれなかった戸惑い

九兵衛とハジ。
待ち人ふたり。

 随分秋めいてきたと、季節の移ろいを見ていたときだった。

「お隣、どうぞ」

 斜め後方から声が聞こえた。どうやら自分へとかけられたらしく、ゆっくり振り向く。そこには団子の串を一本持って僕を見ている、左頬の傷が特徴的な人間がいた。腰には十手、同心かと自然肩の力が入る。しかし相手は気にするふうもなく、隣を勧めてくる。悪事を働いた覚えはないから、ひとつ深呼吸して力を抜いた。

「……ありがとう」
「いえいえ」

 空気でわかる。同性だ。
 僕と違って隠して生きているわけではなさそうだが、女子の同心とは珍しいと思った。いや、同心で生きているからこそ、その格好をしているのだろうが。ちょっとした矛盾にむぅと唸りながら、勧められた赤い椅子へ腰を下ろした。

「食べやすか」
「いや、結構」

 おいしいでやんすよとズズイと差し出される、こし餡を絡めた団子一本。見ず知らずの人間からいきなり物をもらって食べるなど、そこまで浅ましくもなかったから対応に困った。こうも勧めてくるとは、とても美味しいのか、とても不味かったのか。相手は同心だ、これも捜査の一環かと変に勘繰りを入れてしまう。

「甘いものはお嫌いで?」
「いや……何といえばいいかな」
「食べてるとバレたらちょっと怒られるんで。ね」

 なるほどと思った。口止め料か。
 お茶を運んできた娘にいらぬと手振りで伝え、軽く下がらせる。時刻は八つ時を少々過ぎて、店に人は僕等ふたりだけだった。つまり、世の中の休憩時間は過ぎているということ。
 こんなものなくても誰に喋るわけではないが、差し出された団子を受け取る。

「お侍、さん?」
「……まあ」

 置いた刀が初めて目に入ったのか、同心は目を丸くして、でもそれ以上の驚きはないようでもぐもぐと残りの団子を頬張っている。
 侍の地位が落ちたと嘆かないわけではないが、このご時世だ、それより団子屋で頭を下げられても困る。このくらいの反応で丁度いいと、僕は結局置かれてしまったお茶に手を伸ばす。茶柱は立っていなかったが、ほっこり体の中から温まった。

「刀持つのも大変な時代でやんすねぇ」
「ああ」

 かさかさ、足元で落ち葉がリレーをしていた。リレーというよりはマラソンか。
 甘いが後味はすっきりとした餡だった。ここの店の餡を食べたのは初めてだったから、今度から選ぶのに苦労しそうだと考える。
 秋でやんすねェ、そうだな、手が荒れる時期でやんす、そうだな、手荒れには桃の葉が利くでやんす、そうなのか、他愛のない会話がいくらか飛び交ったあと、ふいに同心が立ち上がった。

「じゃあ迎えが来たみたいなんでそろそろお暇しやす」
「そうか」

 迎えとやらの姿はどれだろうか、人通りを見てもここ目掛けてくる人物を特定するのはちょっと難しかった。

「話し相手になってくれてありがとうごぜぇやした」
「いや、こちらこそ」

 馳走になったと立ち上がろうとすると、はいとお茶を渡されて両手を塞がれ座らされてしまう。代金をその場において、中へとご馳走様と残し、にっこり僕に笑いかける。

「ではまた、九兵衛さん」

 最後のさん、は年齢や初対面に対する礼儀の雰囲気ではなかった。
 彼女もわかったのだ。僕が空気でわかったように、彼女もまた僕の性別を一瞬で。もしかすると、声をかけた最初から。

 しかし名乗りあっただろうかと、お茶を啜りながら考える。
 着物の裾の内側に刺繍された自らの名前のせいだと気付き、東城ォォォとなったのは、待ち合わせ三十分の遅刻の相手に指摘される、数分後の話。




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BGM:Salyu『TERMINAL』
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加島恵梨(カシマメグリ)
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