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同じ呼吸で生きるなら

神威と銀八。捏造3Z設定。
読了:コミックス第二十五巻まで

 アルコールのにおいが鼻をつく。
 全くの無音を作れない静けさ、視界を泳ぐと白が光を反射していた。

……サボリ?」
……のな、この涼しい時期に倒れた生徒がいるから見に来てやった優しい担任にいうセリフがそれ?」
「サボリじゃないか」
「人の話聞いてる?」

 気になったから手を伸ばしてもじゃもじゃをもしゃもしゃしてみた。俺の髪より扱いにくそう。会話を聞きつけた保健医が顔を覗かせ、元気みたいねと言うからうんと返事をしてやった。すると言葉遣いと軽く叩かれどうもお世話になりましたと銀八が頭を下げる。校内暴力だ。

「このへんは妹のほうがしっかりしてるね」
「何が?」
「あいつはちまちま水分補給してるぞ」

 渡されたままに体温計を脇にしまう。スポドリをもらってぐいと嚥下して、にっこり笑ってやる。

「自分が弱いことを知ってるのさ」
「倒れた奴のいうセリフじゃないね」

 やーれやれと竦める肩の向こう側に見える時計は放課後直前を表していた。もう少しすれば帰宅だ部活だと廊下は騒がしくなる。帰りのHRの前にちょろりと寄った、そんなところだろうか。
 ピピピと鳴った体温計を取り出し、表示された体温を見て保健医がOKを出す。
 首を回す。異常なし。籠の中に畳んであった体操着の上着を手にして軽く着込む。

「だってこの時期は運動の秋っていうんでしょ? 夏みたいに注意報出ないじゃない」
「油断大敵。女子を見習え、日焼け止め毎度塗ってるぞ」
「女扱い? 天パ」
「悔しかったら髪切って来い」

 さっき俺が混ぜてやったからセットは更に完成度を増している。いい気味。
 お世話になりましたァ、寝惚けたような挨拶をする銀八を置いて、踏み潰されていない綺麗な上履きで音を立てながら廊下でのびをした。ファッションだかなんだかで踵など潰したら戦闘するときに無駄にバランスを崩しかねない。

「ねー先生?」
「ヤだ」
「泊まりにいっていい?」
「ヤだっていってんだろクソガキ」

 ぺこんと手帳で叩かれた。どいつもこいつもチビ扱いしやがって腹が立つ。蹴りのひとつでもくれようかと考えて、まだ交渉中だということを思い出して拳を鳴らすだけに留めた。

「同じ部屋シェアしてンだっけ?」
「そう。わかってんなら泊めてよ」
「お断り申し上げます、教師の家は家出小屋ではありません」
「馬小屋もない貧乏公務員が何を偉そうに」
「お前んち馬いるのォォォ!?」

 でかいツッコミが廊下に響く。他のクラスではHRが始まっていそうだ。迷惑と感じられても俺のせいじゃないから何も困らない。
 クラスの階までの階段を昇りきった先、牛乳瓶眼鏡が角からこちらを見ていた。

「何だ、神楽。早く教室戻れ」
「あれー何してるの? 心配してきてくれたの、お節介」
「遅いから様子見に来ただけヨ、自惚れンな」

 前半は担任に、後半は俺に。律儀に返り事をしてぴゅっとおだんごは駆けていった。
 うーんと考える。

「ねーせんせー」
「いつでも前言撤回は受け付けてるぞ」
「あっそ」

 ぺったぺった歩く後ろについていく、まるで転入生みたいだなと思いながら。

「あれごときの心配でプリンを食べた罪は消えないなァ」
「あっそ。おーら席付けー」
「家族って本当面倒」

 俺の哲学的本音はクラスメートの椅子を摺る音にかき消された。タイミング間違えた。
 いっちょ破壊活動でもするか、体育の分も含めて。行動に移そうと思った寸前、銀八が俺の肩を押しやりながら、そうかィと呟いた。振り向いて見た独り暮らしの顔は別に悲しそうでも何でもなくいつも通りで、さらに腹が立った。
 どうして世の中、うまくいかないんだろう。




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