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買ったばかりの炭酸水、太陽の下で一気飲み

3Zで土沖。×注意。

「終わったな……」
「終わりましたねィ」
「じゃねーだろありがとうございましただろ」

 平手で叩くといい音がした。何も入ってなさそうな音。こんなだから俺は冷房もない高等学校に来ていたのだ。マジで何でもいいから詰めて欲しい。
 しかしそれも今日で最後だという。嬉しいことこの上ない。

「俺先行ってっから。ちゃんと出して来いよ」
「はいはい、言われなくてもー」

 1階への階段を下りきったところで二手に別れる。俺は昇降口、総悟は職員室へ。補習のプリント抱えてえいやこら、ひよこあたまは頼りなさ気にふらふら歩く。
 
 自転車置き場にはほとんど空室だった。数点見えるのはおそらく、この炎天下頑張っている運動部員のものだろう。愛しのマイチャリは今日も盗まれることなく主人を待っている。俺はポケットをまさぐり鍵を確認する。差し込んで回すとがっちゃんとさび付いた音がした。さっさと帰りたい。
 職員室のあるあたりを見遣っても、ただむき出しのコンクリートがあるだけで総悟の姿など見えるはずもない。しかしすることなく待つだけというのは暇で、しかもこの暑さだ、ケータイを鳴らそうかと考えたが行き先は職員室。説教くらっている可能性も捨てきれず、やっぱり手持ち無沙汰に待ち人を選ぶ。

「ひーじかーたさーん」

 みーんみんみんみん、いい加減苛立ってきた頃、ようやく状況変化が訪れる。
 のんべんだらりと総悟が昇降口をくぐる。それを見てやっとかと汗をぬぐい、自転車を押して太陽の下へ出る。一気に暑さが増し、焦げるかと思った。校門で合流した総悟の手には何か握られていて、説教じゃなくてジュースで時間をくっていたのだと一瞬で悟る。しかも見たところ1本。

「……おっせーようっせーよ帰ンぞ」
「夏休みまでお付き合いありがとーごぜぇやした、と」

 じゃかじゃかじゃかっ。
 勢いよく手許が振られた。その速さで補習をこなして欲しいと願ってしまうぐらい。

「ハイ」
「……。」

 嫌な予感は的中するものだ。今度から何も予想すまい。
 果汁入りジュースならわかるが案の定というかなんというか、差し出されたのは炭酸だった。
 いやね。こいつがね。付き合いの良すぎるただの学友ごときにね。労いの気持ちを持つなんてことあるわけないとわかっていたけどね。でもね。
 女子が見たら悲鳴を上げそうな、教師が見たら点数あげたくなるような、青空と太陽をバックに爽やかスマイルを見せ付けながら、総悟は俺に追い討ちをかける。

「110円でさァ」
「金要求すンのかよ」
「とーぜん」

 飲めなくした上に奢りじゃないとかどーゆー神経してんだこいつは。
 学内の自販機だから10円引きなのがせめてもの救いだろうか。そんなことで救いを見出す俺もレベルが低いと思うが。
 財布から硬貨2枚取り出して、それと引き換えに炭酸飲料1本を受け取る。
 総悟の体温をうつして少しぬくったいが、それでも冷たさは消えていない。これで振られてなければ今すぐ喉を潤すというのに。

「飲まねェんですかい」
「……まえな、」

 どの口で尋ねるというか。
 暑さも手伝って自棄になる。
 お、と総悟が後ろに跳ねて、同時、ぶしゅっと白い泡が吹き出した。
 避け損ねた少量が前髪を濡らし、両手とも噴水の餌食になる。
 首をも汚しながら飲んだ炭酸は、体に悪そうな、しかし快感を呼ぶ味がした。いうなれば青春そのもののような。

「よくやった!」
「っるせ!」

 振りかぶって、ほとんど入っていないゴミ箱に投げ入れる。ナイスピッチンと総悟が籠にぺったんこな鞄を放り込む。カン、成功の証を遠くで聞いてペダルを強く踏む。

 仮にも風紀委員がしていいことではない。もちろん道路交通法的にも触れる行い。
 総悟を後ろに乗せて、夏を切る。
 炭酸の泡が耳元で弾けて、背中の楽しそうな含み笑いを反響させた。




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