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酸化する青

銀時と陸奥。坂陸奥前提。
陸奥、誕生日おめでとう。

「知」

 らない。ってる。
 どっちとも取れる止め方をした口を塞ぐような真似はせず、代わりにその手でしっしっと払った。
 銀時。
 家賃回収のババアかと思って戸に蹴りを入れたら人違いだった、腐れ縁の顔が俺の名をとく。気安く呼ぶな。

「知らんか?」
「知らねェな。何で」
「坂本のバカが来ているのだ。邪魔で敵わん」
「俺ァお前が邪魔だよ」

 突き抜けた頭から引っこ抜いてガコガコとレールに喰わせる。数度引いて建て付けの悪さを解消させると、お前も探せとほざきやがる。
 誰がするかそんなこと。閉めて会話をシャットアウトしようとすればひょいと紙袋を見せられた。甘味の気配に戸にかけた手はそのままに覗き込めば、麗しい水羊羹が数個、陽光を弾いていた。

「お前にではない」
「アァ?」
「陸奥殿にだ」

 食えない奴とはこういう人間をいうのだろう。ムカついたから本気でヅラにさせようかとズバンと引っかくように叩いた。そうしたら爪に数本引っかかって抜けたとくる。キューティクル傷みすぎ、手首を振って落とそうとする俺にヅラが貴様ァァァとうるさい。
 無視して背を向け今度こそ、戸を閉めて部屋へ足を向ける。

 玄関に並ぶ一対の草履、何だ最初からバレバレだったのだ。
 やれやれと掻っ攫った紙袋片手に居間へ移動する。

「すまんな」
「聞いてたの」
「そいつはおんしらが食え」

 一緒に居過ぎてうつった言葉遣いは、こっちとしては耳に慣れなくて聞き取り辛い。友と話していたときも実は曖昧だったんだから仕方ない。適当に相槌打っていた頃がなつかしい。

 渡す前に譲ってもらった甘味、俺は遠慮せずにもらうことにする。
 ふたつ取り出してあとは冷蔵庫へ。スプーンを二本持って座るように目で促せば、俺がヅラに会いに行く前と同じ位置に腰掛ける。
 なかなかいいものだ。ここまでするなら直接謝りに来ればいいのに。高い金出すより女は真の言葉を欲しがるものだと俺は思う。

「食え。寛大な銀さんはタダであげちゃうよ。ちっとぬるいがな」

 無言で餡子の塊を掬って一口含む陸奥はやっぱり、機嫌を直す素振りを見せない。やんなるね、まったく。痴話喧嘩はしてもいいが巻き込むのはやめて欲しい。

 隠そうともせず溜息零して、かさりといちまい、紙切れを机に伏せる。

「?」
「底に入ってた。お前宛てだろ。ああ、読んじゃいねーから安心しろ」

 スプーンを置いて紙を持つ手はなめらかだった。躊躇しないあたり、多分もう待てない証拠。

「……銀時、」
「いいよいいよ、依頼料は朝昼晩飯羊羹で。さっさと行け、そしてもう来るな。来るならもっとイイ話持って来い」

 それはそれはウザイ程丁寧な文体で、しかし一言二言しか綴られていないであろう手紙は、素早く懐へ仕舞われた。傘を被り外套を脇に抱え、また謝罪を口にして陸奥は、俺の旧友のもとへと去っていく。

「……青いね」

 空では日本中に逢瀬を知られているカップルがいるというのに、地上では平手打ちかまして家出する女もいる。何も誕生日に喧嘩せんともいい気がするが、誕生日だからこそ荒れるのだろうか。いや待てしかし、喧嘩したのは宇宙かも。そうなると七夕も伝承もクソ喰らえな展開に。
 とにかく三日もせず解決したのは何よりで、久々にありつけた甘味に頬を綻ばせた。




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