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染みます、染みます、心まで

初期土沖。
事後っぽい。甘め。

「触っても平気?」
「ん?」

 質問の意図を深く読み取れず、わからないながらも首肯すると、真面目な表情のまま「だから」と続けた。

「ヅラだったり。植毛だったりで、取れることはありませんよね、と訊いてるんです」
「おま、俺のことそんなふうに見てたんか!?」
「だって大事なことでしょう? ふざけて触って抜けて破局だなんて間抜け過ぎてあたしはイヤ」
「俺ァ抜けてもヅラにしません! ありのままに生きます」 

 起き抜けにいったい、何を論議しているというのか俺たちは。
 細っこい指が空で遊んでこっちに来てどきどきした、貴重な鼓動を返せチクショウ。

「大体、昨日さんざ引っ張っただろ」
「……そうでしたっけ」 

 くる、と毛先が丸まる。
 天然なのか寝癖なのか自分さえ判断しづらい髪に、他人の指が絡まるのがおかしくてくすぐったくて目を瞑る。

「覚えてねーのかよ」
「スミマセン」 

 指はなかなか侵蝕を止めない。
 視覚を閉じたおかげで他の五感がぴきぴき目を覚ます。
 
 髪と指が奏でるワルツ、踊り出したくなる。
 近い体温を引き寄せてこのまま。

「……感想は?」 

 自制が効かなくなる前に目を開けて、遊んでいた指を俺の手に留まらせる。
 紫苑が通常の倍は近いところに居て、堪らないと俺は、笑顔を歪ませた。

「緊張、する」
「緊張?」

 こくりとひとつ。

「抜けやしないかと」
「貴様、まだ言うか」 

 掴んでいた手を強く握ると、ばーかといっちょまえな女の顔を作って笑われた。

 空が白くなってくる。
 タイムリミットが近いなと油断したのがいけなかった。
 くるりとうまく関節を回したと思ったら、握っていたはずの手首は逆転し、俺はしなやかな指に取り込まれていた。
 そしておもむろに自らの胸に押し付けた。

「……!」
「髪触るだけで、……こんなに緊張します」

 何ででしょうね、なんて。
 白々しく感じてしまうぐらい真っ直ぐ、それでいて目線はすぐ伏せて呟くもんだから。 

「……何すンですか」
「いや、つい」
「ついィ?」

 大人気なくキスしてしまったわけだけど、ねえ、君はどう思う?




Title:>stock>03
BGM:redballoon『銀色の空』
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加島恵梨(カシマメグリ)
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