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喪失を糧にできる人間と、糧にできない人間

現行沖田と土方。ミツバ編後。
暗め注意。

 挨拶というものはどうしてこんなに面倒なのか。自分もそうだということを棚にあげてでも、昔の日本人に問いただしたい。
 どんなに短くても四文字。「おはよう」、はしかし俺が使う挨拶文じゃない。「ございます」までつけない場合はそもそも「おー」で済ませていたんだと思い知る。「こんにちは」、「こんばんは」、「おやすみなさい」。何でこんなに長いんだろう。口を動かすのが煩わしい。

「おはようございます、隊長」

 口を動かすどころか首を折ることも面倒で、もっといえば歩くのだって億劫で、突き詰めていえば生きるのさえ、だるかった。
 そんな状態になっていることをここの人間はわかっているから、隊長と呼んでいてもちいさなこどものように気遣っている。情けないとも鬱陶しいとも思わない、ただ今まで随分多くのことを感じて考えてきたんだと思う、からっぽの日々。

 自分の部下のときこんなに沈んだことがあっただろうか。
 いのちはみんな、同じ重さだというのに。
 何という人にあるまじきヒイキ。

 食堂に足を運んだとして、頼むものといったら麺類ばっかりだから栄養も偏る。噛むのが面倒なんだから仕方ない、と言い訳したくとも正論は向こうにあるから何も言わない。

 顔を見たくないと思っても避ける真似など毛頭する気のない人、いつも通り向かいの席を俺のためにあけて待っている。無視することは簡単だけど、ここで避けたら一生近づくことが出来なそうだから俺もそれに従う。多分この人は俺が何を言っても何をしても許すだろう。願いはかなえずともそれを行うだけの理由が、俺にはあると自負しているから。
 だからこそ俺は、何も言えないのかもしれない。

「おはよう」
「……」

 ん、ともいわずにでも頷いた。
 注文せずともほぼ自動的におばちゃん特製のうどんが出てきて、いただきますを心の中だけで言って啜る。

 日本語は何でこんなに面倒臭い言語なんだろう。
 もっと短くして欲しい、出来るなら喋らなくてもそれが普通になって欲しい。
 そうだ、目上の人間には敬語をと教えてくれた人はもういないのに、咎める人間はいないのに、何で。何でここまで俺は、言葉遣いを変えようとしないんだろうと考えて、油揚げを齧った。

(あねうえ)
「総悟」

 そーちゃん、と呼んでくれる人はもう地球上にはいないのだと前触れもなく突然理解して、ばたばた世界が滲んでいった。
 何か話しかけていたのかもしれない土方さんが無言で箸を止めて、俺を見ているのをつむじで感じる。
 俺のせいで食堂が静かになってしまって、ああ申し訳ないなと思って、でもそれを謝る術を俺は今持っていなくて。

 大勢でいるからこそ感じるんだ。
 世界にひとりぼっちって、こういうこと。




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