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満たされ上手

初期土沖。
読書後。

 はいはいして後ろから近づいて、脇腹と腕の間へ潜り込む。

「どしたの」
「んー……」

 明確な回答はせず、肋骨から鎖骨にかけてへ擦り寄り、甘い匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。今日のおやつはチョコレートですか。煙草より健康被害は少ないと思っていたけれど、こんな調子でカロリー摂取し続けていたら、メタボが一般平均より早く訪れそうな。まだ膨らむ様子のない硬いおなかを撫でて、くすりと笑う。

「……眠い」

 膝にあたまを載せて一息つくと、骨張った長い指が猫にするように顎の下をくすぐった。
 本はと尋ねられて飽きたと返す、誰かがいたら殴られそうな勤務時間帯。

「何読んでたの」
「わがはいはにゃんこである」

 道理でとくすくす笑う土方さんの指が、顎から耳元へ流れていった。あたしは甘えられればそれでよかったのにこの人は、それだけじゃつまらないらしい。紙仕事に飽きてきただろう頃合を見計らってのちょっかいだから、こうなることはわかっていたのだけど。
 あったかい気分になって笑いがこみ上げ、さっき吸い込んだ分ゆっくり吐き出して全身を弛緩させた。

「……寝ンの?」
「ちょうどいいまくらが手に入りましたし」
「風邪ひくぞ」

 応えてくれないあたしに焦らしの色を見せ、軽く髪を梳いていた手が離れる。衣擦れの音がして何されるか考えずともわかって、そっちが風邪ひくでしょうと上着を掛けられながら吹いた。いンだよ俺は、土方さんは職務怠慢な一番隊隊長を咎めることなくむしろそれを助長して、呟く。読書を咎めてないあたりからあたしは諦められてるとも、いう。
 甘い匂い。
 やっぱり少し制限かけたほうがいいような気がするけれど、この人から甘味を取り上げたらどうなるのか、想像がつかないというか予想したくないというか。どちらかといえば後者だと自らの思案に納得して、ドクターストップがかかっているわけじゃないし、虫歯の一本でも出来たら取り上げようかなとつらつら思う。

「終わったら起きろよ」
「終わったら起こして下さい」

 あたまを一撫でして机の上の仕事に戻る土方さんの膝の上。
 起きたら何するかなんて、そんなの決まってる。




Title:>stock>03
BGM:天野月子『DELUXE catalog』
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加島恵梨(カシマメグリ)
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