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たぶん、止める人間は誰もいなかった

山崎と神楽。土神前提。
恋のキューピッド。

「……こんにちは?」
「……」

 無言で見上げられたあと、ぼそりと何だジミーかと呟いた失礼千万な女の子は、声をかける前に予想した顔と同一人物だった。
 人通りの少ない道とはいえ端で蹲る目立つ傘。気分でも悪いのかと思って様子見も兼ねて挨拶してみたけど、顔色自体はそんなに悪くない。しかし、逆に疑問が濃くなる。何してんだ、この子。
 俺も大概世話焼きな性格してて、覗き込んで見えたドレスの裾から覗く白と赤。

「……ど、どうしたの、それ!」
「うっさいアルなぁ……じっとしてたほうが治りは速いアル」

 動いててもすぐ治るけど、と付け足して、ばつが悪そうにふいと顔を背けてしまう。何のことか一瞬わからなかったけど、傘を見て思い出した。そういえばこのチャイナガール、夜兎だった。
 俺がそのことを知っているのを前提で話した、のは、どういう経緯だか。屯所の外にいる今くらい思い出したくない顔を思い出しそうになって、黒板消しよろしく拭い消す。

「よく見せて」
「ヘンタイ」
「治りが速いならすぐ処置しないと、変なふうにくっつくよ」

 思い当たる節があったらしい。言葉を詰まらせ、渋々体重を移動させて怪我してる足を軽くした。
 紳士ぶって失礼して、膝から脛に掛けてを見せてもらう。
 転んだ、にしては随分派手な。銃弾が貫通しても一日も要らずに治ると聞く頑丈な柔肌。何が起こったのかはわからないけれど、多分、元から体調が悪かったかなんかしたのだろうと検討をつける。うちに体力馬鹿は大勢いるけど、やっぱり免疫力落ちてると治りは遅くなるから。

「嫌じゃなければ、屯所で手当てするけど」
「はア?」

 心底馬鹿にしたような可愛くない顔。
 わかってますとも、そんな義理さえ結べる関係性にないってことぐらい。
 でも怪我人を確認してしまって、この手で出来ることがあるのに放っておくなんて真似、出来たら多分監察なんてしてないというか。
 チャイナガールはイライラと俺の手許を見て、あ、と声にならない呟きを漏らした。何事かと思う前に、じゃあ仕方ないから手当てさせてやるヨと掌を返したように顎を上げる。

 自分で言い出したことだけど、何か腹立つわ、この子。
 そして思い出した、眉間に皺寄せたあの顔。しまった、屯所にいるじゃん。何で好き好んで引き合わせるようなキューピッド役を名乗り出てしまったのか。
 後悔先に立たず。諦めて疲れのせいだと息を吐く。

 ポリゴンだとか糸コンだとか、適当に名前をつけて反対することだって出来たはずなのに、どうして。
 俺は、彼女と彼が近づくことに反論しないのだろうか。

「悪さはしねェアル」

 背を向けてしゃがんだ上から、小さく降ってきた声。顔は見えないけど、笑ってないことくらいわかる。真意を汲み上げられずに無言でいると、ぐ、と視界が暗くなって重みを感じた。

「悪さしなければ、……敵じゃないんダロ?」

 返事はせずに立ち上がって歩き出す。
 屯所に着くまで傷が治っていようが国家公務員がロリコンだろうがもうどうだっていいや。
 大江戸マートのビニール袋の中で、白い調味料と中毒性のある草の筒が内から俺の腿を攻撃する。

 貸した背中に感じる程よいこの重みを、とある鬼はそう言って愛したのかと思うと俄かに、心臓がもぞもぞした。




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BGM:『銀魂 オリジナル・サウンドトラック2』
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