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「あなたなんか大嫌い」「無理をしなくてもいいんだよ」

初期土沖。
ペディキュア。ちょっとっぽい。

「かっわいくねーなァ」

 化粧品贈って貰ってしかも塗って貰って、その表情はないんじゃないの。
 土方さんは半分冗談半分本気におどけてみせて、ふっと息を吹きかける。
 何千年も昔の名残の水掻きに、細い吐息が当たってくすぐったい。無意識に引っ込めようとしたら土踏まずを持つ左手が一瞬早く踵にスライドしてそれを許さなかった。慣れた対処にあたしはますます可愛くない顔になっていく。

「……誰のせいだと思ってるんです」
「なに、俺のせいだって言いてェの?」

 表情は崩れない。余裕の笑みであたしを見上げるこの人が嫌い。
 親指の半分以下の面積の小指を終えて、床に下ろそうとしたそのときを狙ってあたしは、グンと重力に逆らった。
 よし、決まった。
 塗り終えて油断していた土方さんはあたしの行動を抑えることが出来ず、笑みを少し歪ませた。

「退かさないんですね」
「んー、この状況も新鮮でなかなか楽しいかなって」
「じゃあもう少し頭下ろして下さい、踏んであげます」
「えっそれはヤだ」

 ゴメンナサイと片仮名でだけど謝ったから素直に足を退けてやる。
 少し視線をズラして見えた顎の下。ちらちらと青くなってて笑った。
 そんなあたしを見上げてゆっくり首を傾げる。

「では左足もよろしいですか?」
「まあ……片足だけってのもなんだし、許可」

 くすくす笑いながらおかしな口調で会話するあたしたち。
 そもそも、仮にも女のあたしの部屋へ夜訪ねられた数分前から、妙におかしかったのだ。あたしも土方さんも。
 一体どこで何のために手に入れたのかわからない、マニキュア兼ペディキュア。
 手ではなく足から塗っていく変人。多分、手は塗らないんだろうと思う。みんなにバレるから。

 右足の爪先を眺めれば、麗しかったであろう青が川のようにうねり流れていた。
 あたしにはこのくらいが丁度良い。完璧主義者の土方さんには面白くないだろうけど、不完全なほうがあたしにはずっとお似合いだ。

「動くなよ」
「ハイハイ」

 返事をするが早いか遅いか、ひたと刷毛が青を爪に載せる。手馴れた動作、どこで覚えたのかとは絶対訊かない。
 冷たさが爪越しに足指を震わせ、その様を満足そうに見るこの人が、あたしはとてつもなく嫌い。




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加島恵梨(カシマメグリ)
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