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ようこそアリス、軽薄な非日常へ

銀時と神楽。土神前提。
恋について。

「銀ちゃん銀ちゃん」

 ちゃぷんとどこからか雫が落ちてそこを中心に波紋が広がる。胸に水圧を感じて目を開ける、狭い湯船を泳いで神楽が寄っていた。

「オイ、あんま寄ンな、狭いから」
「恋ってなあに」

 くるんと大きなふたつのあおが俺を映す。アプリコット色の髪から雫が落ちて、ふたりの間にまた波紋が出来た。その波紋の下は意図的に視界から消して、やァれやれと肩を竦めるとねぇってばと神楽が答えを求める。

「……何で俺に訊くの神楽チャン」
「他に訊く奴いないもん」

 それもそうか。
 妙に納得して笑みを作る。それをどう解釈したのか、笑ってんじゃねーヨと膨れるから濡れた髪を撫でる。

「相手はだあれ?」
「……相手も何も」

 恋が何なのか知りたいアル、伏せ目がちにもごもごと、口の中で何か言っている。

「そうさなァ……」

 ある意味性教育より難しいかもしれない。いや、“愛”の意味を訊かれるよりマシだろうか。俺もわからないことを教えられるはずもないから。

「『あ』って思ったら落ちてるもの」
「『あ』?」
「気付けば一日の思考の大半を誰か一人に奪われるもの」
「誰か一人?」
「苦しいけど楽しい、幸せだけど不幸せなもの」
「幸せだけど不幸せ?」
「ふわふわしてどーんってなるもの」
「ふわふわしてどーん?」

 ひとつひとつ言葉を選びつつ答えるも、どうも決め手に欠けた。同じお湯に沈む隣の少女は鸚鵡返しに疑問符を浮かべている。ごめん、日本語下手で。

「じゃあさじゃあさ」
「ん?」
「どきどきしてきゅーんとなってぱーんって、なる?」

 ゆっくり目を細める。
 節約のため一緒に入浴するのは今日でおしまいかしら、そんなことを考えて、胸の前で指を動かしまっすぐな想いを他人に尋ねる同居人を、愛しく思う。

「お前が一番、わかってンじゃねーの」
「……そんなこと」

 ないもん、のぼせてきたのかはたまた違う理由か、赤らめた頬を膨らませてぷいと向こうを向いた。

「じゃあ俺先出るわ」
「銀ちゃん」

 上がろうとする俺の手をとって、上目遣いにさっきのと口を開く。

「銀ちゃんも、恋をしたアルね」
「……」

 したことがあるの間違いだよ。ちょっとしたニュアンスの違いを小さな大人の女性に告げることはせず、麦茶用意しとくなと笑った。ウンと頷いて手を離す少女は恋を、知ったのだ。

 俺は止まり木でいいのです。止まり木になりたいのです。

 楽しいこと辛いこと嬉しいこと悲しいこと。
 偶然にドキドキと枕を友達に出来ない夜も、不条理にキリキリと枕を涙で濡らす夜も、何もかもきっとこれから。
 相手はだあれ、いつか教えてね。

「銀ちゃん銀ちゃん」

 さあ、手を伸ばして迎えよう。 




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