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愛しい君に殺意を抱かざるを得ない状況

現行沖田×初期沖田。
コミックス未収録のデコボッコ教。風の噂で聞いただけなのでいろいろぐだぐだ。

追記  7/28
第五十巻 第四百三十七~四百四十一訓

(自分設定)
お互い土沖前提、不倫風味。CPというか双子みたいなパラレルワールドの同一人物みたいな。
ふたりはお互いの自室に行く気になれば簡単に行けます。障子など扉を通じて。なんか気合で。そのことは第三者は知りません。

 お茶噴いた。
 噴いたというかむせた。
 むせるというのは簡単に言うけど実際はとてつもなく大変苦しいもので、なんたって空気しか入れないところに液体が侵入してしまうのだ。気管は警報機を鳴らして救急車や消防車、はては警察まで呼び出す勢いで不法侵入者を排除しにかかっている。
 本気で苦しがってるあたしのことをスルーして、可哀想に緑茶まみれになった書類たちを一旦避難させ、すぐそこにあったティッシュを二、三枚引き抜いて、汚れたちゃぶ台を含めて掃除しているのは、あたしを苦しませるきっかけを作った張本人だ。
 中央上部で結われ、右へ流している髪は、やわらかくふりそそぐ春の日差しのような色で、その色と同じ色の睫毛に囲まれた目は、今日もあったかくなったなァと思わず見上げたくなるような春の空色を連想させた。
 大分落ち着いて、上がった息を整えようと一度息を大きく吐いて、手の甲で拭いているだけの濡れた口元、手付かずの襟元、果ては涙の浮かぶ目元を拭こうと、自分もティッシュを引こうと手を伸ばす。そこに、ガーゼ生地と思われるハンカチを差し出された。

「大丈夫?」

 尋ねる声は低くない、まるで鈴を転がすような高い声。
 大丈夫? 大丈夫なワケなかろう。
 むしろお前こそ大丈夫か?

 あえて受け取らずティッシュを一枚抜いて口元を乱暴に拭くと、爪の先まで手入れされた細い指の持つハンカチが、あたしの隊服の濡れた部分を押さえてきた。
 まさか触れてくるとは思わなかったから一瞬動きが止まってしまった。
 そんなあたしに構わず、ぽんぽんと胸の斜面にまでハンカチは移動していく。

「……じゃねェェェだろォォォ!!」

 ようやく喋られる段階まで回復したあたしは、セクハラもいいところの所業に使われているハンカチを乱暴に奪い取った。

「あっ」

 あっ、って何だ、あっ、って。お前は女子か!
 というか女!? 女!?
 ……女!?

「誰だお前は!!」

 息も荒く立ち上がって、目の前の人間を行儀悪く指差した。

「沖〇△子だけど」

 あたしの知ってる男の名前に近い名を名乗り、クスクス笑う女にイラッとくる。
 投げつけてやろうかと握りこんでいたハンカチを見ると、片隅に今聞いた名前がローマ字の筆記体で、数枚の花びらを舞わして刺繍されていた。“女子力”という言葉が敗北感と共に生まれ、その思考に更に負けた気がした。

「……あたしが知ってるお前でいいんだな?」
「多分お前が考えてる私で合ってまさァ」

 そいつは、あたしにそっくりな女だった。
 髪も声色も、背丈も身に纏う隊服も、全て合致するわけじゃなく細かい部分は違っているが、並んでみたら間違い探しのゲームで盛り上がりそうな位、そっくりだった。
 どんなからくりだかわからないが、“アイツ”が女になった、と仮定していいんだろう。
 何しろ空から宇宙人が侵略してくる時代だからな。ついでにどこかの世界の自分が遊びに来る世界だからな。何が起こっても不思議じゃない。
 お茶の攻撃からの疲れも重なって、あたしは深い溜息を吐く。

「何でまた女になってンの」
「実は話せないんでさァ」
「はァ?」

 腕を組んで尋ねてみれば、女はちょっと困った顔をした。小首を傾げる姿も様になっている。その傾きでサラリと流れる髪も、まるでそうなると計算されているかのようだ。
 似ているけど別人だ。あたしはこんな無駄にキラキラオーラを放つことは出来ないし、なんていうかこう……こう……、……。なんだろう、いちいちあたしに突き刺さってくる錐みたいなこの衝撃は。

「大体の見当はついてンだけど、確定したわけじゃないから……」
「何ソレ、早く解明と解決に向けて動きなさいよ」
「でもねェ……」

 軽く拍を置く唇は、その造作を引き立たせる色の紅をさしてある。
 瞬きひとつ打って、つい、と意図的に流された目線と目線が重なった。

「会える内に、会っておこうと思って」

 アンタと。

 ふっと息を流すように囁かれ、稲妻が走った。
 知らず動悸が速くなり、顔が熱くなっていく。

 何で女のあたしが女に射抜かれなきゃならん。
 しかも中身はアイツだよ、アイツ。
 それにこの女にドキドキするのは、鏡に映った自分に赤面しているのとほぼ等しいことだというのに。いつからあたしはそんな自分大好きっ子になったというんだ。

 状況と感情がかみ合わず、ちぐはぐな反応をしてばっかりのあたしの頭から爪先を観察しながら、女が優雅に立ち上がる。五十センチ内に他人が近づいたことに危機感を覚え、条件反射で半歩退いてしまった。

「勝ったかも」
「は?」
「サイズ」

 フフンと得意そうに、女が自らの胸に手を置いた。

 雷が落ちる。今度は自分の中ではなく、外に向けて一直線に。
 最高のイラつきから、知らずにハンカチをぶん投げていた。あたしのと微妙に違うデザインをした隊服セットの付属品のタイに命中するも、所詮布に過ぎないハンカチは大したダメージを負わせることは出来なかったようで、女は余裕な顔してぱふんと落ちていくハンカチをキャッチした。
 懐にしまうのを見つつ、まあ確かにサイズはそっちの方が大きそうよね認めてあげるわでもそれが何? と深呼吸しながらあたしは現実を受け入れた。大丈夫、今日から風呂上りにバストマッサージを念入りに行えばいいだけのことよファイトあたし!

「予言してやる」

 ガッ! と生まれて初めて他人の乳房を掴む。

「いだだだだ!」
「お前は絶対、これから誰かに乳を掴まれる」
「今! 今まさに! 掴まれるっていうかもげる!!」

 放せこのヤローと騒がれ、少し力を抜く。

「あーもーチックショー」

 痛みから解放されて油断したところを狙って、あたしはゆるく指を動かしてみる。

「……、」
「……」
「……!」
「……ふむ」

 生まれて初めて他人の乳房を揉むという体験に、ちょっとした感動を覚えて頷くと、視界に何かが入った。

「……っぶなー」
「何しやがるこのセクハラ女ァァァ!」
「先に言葉でセクハラしてきたのはそっちでしょうがァァァ!」
「だからってどんなプレイじゃァァァそういう趣味だったンかァァァ!」
「プレイって何よ趣味って何よ純粋な知的好奇心よォォォ!」

 瞳孔開いてるのを間近で確認しつつ、抜かれた刃を両の掌で挟んでぎゃーぎゃー言い合う。
 どうでもいいけど、こいつはいいなァ、帯刀できて。
 そこがあたしとの一番の違いかもしれない。
 いや帯刀云々の現状は、あたしが自ら望んだことだけど。

「はァあ……疲れた。帰る」
「そうしなそうしな、さっさとそのナリどうにかして来い。まァあたしに害はなさそうだから、どうでもいいけど」
「女って結構疲れるんだねィ、体力なさすぎ」
「あたしより女子力高い癖に何贅沢言ってンだ」
「はァ?」

 刀を鞘に収めつつ、元男の現女は、嫌味っぽく片眉を跳ね上げてあたしをねめつけた。

「仕草はアンタのをまンまやってるンだけど?」
「は?」

 ズイと詰められて、ちょっと発見。髪がてっぺんで結われてるからわかりづらいけど、身長はあたしの方が高い気がする。……“女子”としてそれはいいことなのか悪いことなのか微妙だけど。

「変わったのは体だけで、口調とか振舞い方は意識しなきゃ出来ねェの。で、参考に出来る一番身近な“女”はお前だったから、これでもかなり努力して真似してンだよ」

 それなりに動いて出来た皺を伸ばすのと埃を払う意味で、ぱっぱと服を叩くあたしによくわからないことをそいつは言う。
 私だったり俺だったり、中途半端に口調が混ざるのはそのせいかァなるほど、と呑気に考えていると、やれやれと肩を竦められた。

「まァいいや。じゃ」
「……いやちょっと待ってもしかして今あたし褒められてた!?」
「知らねェよ!」
「待っ……!」

 入って来た障子から出て行こうとするのを追いかける、しかしコンマの差で目の前でピシャンと閉められてしまった。
 向こうへ、と気合入れて開けるも、そこにいたのは残念ながら黒髪の。

「うわっぷ!」
「……永倉ァ!」

 あたしの世界の永倉だった。ち、タイミング的に永倉の訪問の方が優先されたか。
 すごい勢いで部屋から出る形になって、部屋に入るつもりだったんだろう永倉に正面衝突してしまい、倒れはせずともたたらを踏んでいると、体勢を立て直そうと腕の中で永倉がばたついている。

「ちょ、沖田さん、あ、あた、当たっ……」
「え、当たってる? 本当に当たってる?」
「何セクハラ働いてンだお前は」

 軽くスパンと頭を叩かれ、その隙に永倉があたしの腕、というか胸? から脱出してしまう。
 はあはあと、顔ばかりか耳まで真っ赤になっている永倉を覗き込んで「本当に? ねェ本当?」と更に尋ねると、グイと衿を引っ張られて強制的に離される。

「ちょっとォ、あたしは永倉に用があるんです、邪魔しないで下さい土方さん」
「泣いてる未成年者に卑猥な質問を続ける、例えばお前のような人間を取り締まるのがお仕事なもんでね」
「な、泣いてませんッ!」
「ねェ永倉、あたし自信持っていいかな? 大丈夫かな?」
「だからやめろって!」

 緑茶まみれになった書類と、休憩時間の終了の、別々の用件で訪問しに来たという永倉と土方さんをぎゃいぎゃい部屋に招きつつ、この二人が女になったらどっちが勝つかなァと妄想する。
 恐らく永倉の女子力は半端ないだろう、プロポーションは土方さんの右に出るものはいなさそう。いや待てよ、元が美形だからって美人になる確証はない、もしかすると甘い物が大好きな土方さんは巨大化するかも、なんて。
 そしてあたしが男になったら。

(あたしが、男になったら)

 多分、あたしも同様、アイツに会いにいくだろう。
 理由はやっぱり、アイツと同じ。


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