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お待ちください、花束を

3Z初期土沖。
めがね。

「ない!」

 勢いよく叫んだ一人の女子高生にクラスメイトの視線が向かう。

「ない……ない!?」

 叫んだ勢いのままかばんをひっくり返し、がさがさ何か目当てのものを探し出す。
 ブラシにリップに手鏡、はて教科書やノートはどこいった、おっとペンケースの登場です。最初から出ていた文庫本がいろんな『必需品』に埋もれていく。
 かばんの中をからっぽにした沖田君は、続いて机の中に頭を突っ込む、勢いで中の教科書やノートを取り出していく。
 そのさまは見ていて飽きないが、そんな暇人は俺ぐらいだったらしい。他のクラスメイトは朝のHR前の談話を楽しんでいる。

「ない……!!」

 ひとしきり探し終えたのか、がっくり、沖田君が荷物でごちゃごちゃな机を前に椅子に座った。乱れた砂色の髪を肩の向こうに払いのける姿にちょっと欲情するのは、首筋に汗をかいていたせいにする。梅雨前の夏セーラー服がお似合い。

「何探してんだ?」
「眼鏡」
「めがね」
「そう。これ読もうとしたらないことに気づいた」

 と、埋もれている文庫本を引っ張り出し、ぱらぱらめくってみせる。「だめ、読みづらい」、言う沖田君は近くのものが見えづらい目をしている。授業に使用する空色のフレームの眼鏡は、黒板ではなく手元のノートを見るためにかけている。

「最後に使ったのは?」
「これ昨日途中まで読んで、寝ちゃって……」

 そこから遅刻ぎりぎりのパターンで荷造りして登校。
 つまり、眼鏡は昨晩を区切りになくなったと。
 俺はやれやれとため息をつく。

「とりあえず……」
「一緒に探してくれるの!?」
「顔は洗ったか?」
「洗ったわよ! 何よ、探してくれないならあっちいってて!」
「そうか。……じゃあさ。髪の毛、なんとかしてこい」

 手鏡を蒼色の目に映るように顔の正面に差し出す。
 忙しくてそのまま来たんだろう、乱れっぱなしの砂色の髪、そして、空色のフレームが映っているはずだった。

「…………あり?」
「よかったな、あって」

 頭の上にこつんと感触、気づいた沖田君はヘヘヘと俺と笑いあい。

「さっさと言えェェェ!!」

 ぶんと拳を繰り出した。恥ずかしさと怒りに顔を真っ赤に染めて。
 拳を左手で受け止められた沖田君は、こいつになんかかまってられないと恩人の俺を放り出し、眼鏡をかけてブラシとヘアゴムを持って、化粧室に駆け出そうとする。

「待った、お嬢さん」
「何よ、もう!」

 昨日、放課後デートしたとき「可愛い」と言ってた三輪のひまわりのヘアゴム。
 ぜひ咲かせてくれ、渡したら「その場で買ってくれてもいいのに」と奪い取られた。
 「ありがとう」、の一言をおいて。




Title:>stock>05
BGM:バルシェ『valable heaves』
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加島恵梨(カシマメグリ)
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